東京駅で切符を買い新幹線にのる。座席指定のシートにのりこめば、あとは寝ようと雑誌をみようと自由。アイスクリームもお弁当も売りにきてくれる。時間がたてば何もしないで終点まで連れていってくれる。まるで新幹線にのるように、結婚という電車にのりこもうとする女性がいる。結婚でもしておこうかな、結婚しかすることないし、とりあえず。彼女たちにとって結婚は、何もしないでも安心してのりこめる電車のようなものなのである。「結婚」という約束された切符は彼女たちにとって魅力的なのだ。洋の東西を問わず、結婚が、女が一番喜ぶエサ、であるのも事実なのだから仕方ない。まあ、私のように、結婚していることの唯一の利点は、結婚というものをあらためてしなくてすむという点である。などと思っている女は、やはり少数派なのだろう。(塩野七生『男たちへ』)結婚という言葉で、心を許したんじゃないのか。心を許した訳じゃないのです。でも結婚という言葉に、お金を支払ったのかもしれない。したかったんだろ?結婚。したかった?いいえ。私は、結婚という言葉が出て来る状況が愉快だったのです。(山田詠美「LIPS」)A子さんは三〇歳。二五歳で結婚して五年がたつ。大学を卒業し、家事手伝いやおけいこごとで毎日を過ごしていた彼女がお見合いをしたのは二四歳の時だった。相手は一流大学卒のエンジニアで実家も裕福。土地をもっていて結婚後は家を建ててくれるという。いい相手だ、とA子さんは思ったという。とりあえず結婚をしておけば親も安心するし、経済的にも一生苦労しそうもない。相手のことを好きではないが嫌いではない。まあ結婚なんてこんなものかも、と結婚した。結婚披露宴は現職大臣を仲人にして夫の知人の政財界の人々が集まり、A子さんも友達に対して[費用が高かった。周囲からは羨ましがられる結婚でA子さんの両親も満足気であった。結婚がA子さんの想像と違っていたのは結婚後一ヵ月で判明。とにかく忙しい夫なのである。朝仕事に出ていった後は。夜帰るのは早くて一一時で、大抵は午前をまわる。いまどきそんな忙しい会社があるのかと不思議になるほどだった。しかし夫は本当に忙しいのである。社内のエリート競争でもトップにいるらしい彼にとっては何より大切なのは仕事。家のことなどどうでもよく、A子さんとはほとんど話すこともない。日常生活の注文を言いつけ、帰ってくると食事をしながら新聞を読み、すぐ眠ってしまう。性交渉もはとんどない。たまに週末に性交渉をしても一方的にA子さんに奉仕させるだけで大体五〜六分で終わる。
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